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旭川地方裁判所 昭和41年(少)1343号 決定 1966年7月28日

少年 N・D(昭二三・二・二八生)

主文

本件については審判を開始しない。

理由

本件送致事実の要旨は、

少年は、北海道青少年保護育成条例の規定による、何人も青少年と淫行してはならないにかかわらず、昭和四一年六月○○日頃の午前一時頃旭川市○条通○○丁目左○号○尾○雄方居室において○林○○子(昭二三年一一月一三日生)が一八歳未満であることを知りながら肉体関係を結び、もつて淫行行為をしたものであるというのである。

よつて、一件記録を審査するのに、なるほど少年は上記日時場所においてほとんど初対面に近い一八歳未満の○林○○子と一夜の関係を結んだことが認められるが、これはすでに性交の経験もある○林○○子が内々少年と関係する意図で深夜少年の寝室を訪れ、自ら衣服を脱いで少年の布団にもぐり込むという積極的な態度に出たことによるものであつて、かかる場合にまで北海道青少年保護育成条例第一二条の三、第一八条の罰則を適用することは相当でないというべきである。

つまり、昭和四一年条例二三号によつて追加された北海道青少年保護育成条例第一二条の三は、「何人も、青少年に対し、淫行またはわいせつな行為をしてはならない。」旨規定し、その文言からすれば青少年に対するすべての性的行為を禁止しているかのようにも見えるが、女子の場合、一六歳に達すれば婚姻能力を取得するので、親の同意を得てこれと婚姻した場合には同条に該当しないことは疑うべくもないし、また、婚約者同志が性的行為を行なつた場合においても、やはり構成要件該当性が阻却されると解するのが妥当である。したがつて、同条はその無限定な文言にもかかわらず、みだらな性的行為つまり社会の性的秩序を乱し、社会的に非難されるような態様における性的行為のみを禁ずるものであり、また、「青少年に対し」「淫行またはわいせつな行為をしてはならない。」という文意も、心身の未熟な青少年の性的保護という同条の法意、他の類似罰則との権衡(児童福祉法第三四条一項六号は児童に淫行をさせるという支配的行為のみを禁止し、刑法第一七六条、同法第一七七条は一三歳未満の者を相手とする場合のみ合意にもとづく姦淫を処罰し、また同法第一八二条は「淫行の常習なき婦女を勧誘して姦淫せしめ」として勧誘行為をその構成要件の一部とする。)、あるいは青少年自身の性的自由の問題(青少年のその場限りの情事あるいは性的遊戲ということは決して好ましいことではないが、これを罰則をもつて禁止するということはやはり問題である。)等の点からみて、青少年を相手とする淫行、わいせつ行為のすべてを包含する趣旨と解すべきではなく、もつと狭く、青少年の精神的、知的な未熟さや情緒的な不安定に乗じたような形態における、つまり誘惑、威迫、立場利用、欺罔、あるいは困惑、自棄につけこむ等の手段を講じて青少年を自己の性的行為の相手方とせしめたような場合のみを指すものと解すべきである。

したがつて、本件のように青少年自身が自己の性的欲求から自発的に積極的な態度に出て、相手方と対等あるいはそれ以上の関係において性行為を行なつたような場合には、その相手方はたとえ、一八歳未満の者を相手に性行為をしたとしても前記条例の構成要件にはあたらないものと解すべきである。よつて、本件少年については、非行なしとして少年法第一九条第一項により審判を開始しないことにする。

(裁判官 早川義郎)

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